現代演劇の第一線で活躍する演劇人に学ぶ
関西の舞台芸術をリードする代表的な拠点のひとつ、精華小劇場。大阪市と地元住民、および演劇関係者で構成された「精華小劇場活用実行委員会」が運営を担い、質の高い作品の上演・創造、舞台芸術に関わる人材育成、小劇場演劇の普及を図っている。「精華演劇学校・シニア編」は、2007年にスタートした。毎年5月頃に開講する短期プログラムで「体験講座」と「鑑賞講座」の2つがある。プログラム最大の特長は、現代演劇の第一線で活躍する関西きっての演出家に学べることだ。2008年度の場合、体験講座では、わかぎゑふさん(「リリパットアーミーU」主宰)、岩崎正裕さん(「劇団太陽族」主宰)、田中遊さん(「正直者の会」主宰)が、それぞれの観点から”演劇をやる”楽しみを、鑑賞講座では、日高英雄さん(「イオン化粧品シアターBRAVA!」副支配人)、キタモトマサヤさん(「遊劇体」主宰)という演劇界のベテランが担当し、シニア世代の立場に立った現代演劇の面白いみかたを指南する。本サイトでは、このうち岩崎正裕さんの体験講座、キタモトマサヤさんの鑑賞講座をピックアップして紹介したい。
シニア編の受講生について、創設当初からコーディネーターを務める丸井重樹さんは、こう話す。
「演劇というと敷居が高いイメージがありますが、特に体験講座では、一旦参加されると夢中になられる方が多く、パワフルで講師陣は圧倒されています」
先入観を捨てて参加すれば、演劇体験は、自分を変えるきっかけになるかもしれない。そんな期待も合わせて、やるみる問わず、地域の劇場へ気軽に足を運びたい。2009年度も5月頃に開講予定である。
問い合わせ:精華小劇場
Email:info@seikatheatre.net
Tel: 06-6643-7692
Url:http://www.seikatheatre.net
●体験講座
劇団太陽族主宰・岩崎正裕さん (2008.5)
岩崎さんのワークショップは、ゲームを楽しみつつ自然に演技の基本から創造の醍醐味まで演劇を丸ごと体験できる内容だった。
例えば、自己紹介といっても、自分で自分を紹介するだけでなく、相手の話を聞いて自分のことのように話したり、話の中に1つ嘘を混ぜたり、自ずと演技感覚を体験できる。興味深いのは、ペアの相手を幼い頃の自分に見立てて説教し、子ども時代を演じるもう一人が反発するというもの。シニアにとっては、過去の自分と向き合ういい機会にもなった。
「リフレッシュした」と評判だったのが、身体によるコミュニケーションだ。ボランティアで参加した主に20代の若手演劇人と一緒に楽しむ。ボールを投げ合う、歩き回るなど、一見「演じる」とは無関係のようだが、舞台における関係性を学ぶには有効とのこと。徐々にスピードアップさせたり、誰かの合図で方向や動き、動作の回数を変えたりなど、若干の反射神経が要るが、徐々に高まる一体感が心地よい。 「マス目計算なんかよりも、よほど脳の活性化になる」(ミッチーさん)、「即判断すること、次の展開を考えながら動くなどは、日常生活にも応用できそう(雅史さん)」と受講生には、思わぬ付加価値もあったようだ。
心身がほぐれたところで、いよいよ「表現」に挑戦。3人1組で、特定の色や概念などを表すモニュメントを身体で表し”当てっこ”したり、4コマ漫画を下敷きに起承転結の短いドラマを作り発表し、各組でテーマを交換して演じてみる。岩崎さんは「相互に了解を得ながら、発展させていくことは、コニュニケーションの第一歩。表現はそこから生まれます」とチームワークの重要性を示唆する。最初、控えめだった人も、自分たちの表現を探し、我を忘れて大胆に挑戦した。
ワークショップ最終回の目玉は、戯曲講座。「男と女」「再会」「夏」など、いくつかの条件に沿い、わずか8つのセリフで恋愛ドラマの1シーンを組み立てる。作品は、ストレートな表現、男性のリードで求婚へと急展開するシニアチームに対し、若手チームは、携帯メールの最後に「好き」を暗号化し(英文字入力で「FB」)告白するなど軽い表現に。見事に表れた恋愛観の世代差に、参加者も講師も驚きつつ、創ることの面白さを改めて味わった。
3回の体験講座を終えて「機会があればもう少しやってみたい」(夢子さん)「すっきりした。自分を外に出す演劇は心の浄化作用になる」(カズさん)「定年まであと3年。いろんな芝居をみながら準備するつもり(雅史さん)」。受講生の演劇に対する期待は、より強くなったようだ。
●鑑賞講座
遊劇体主宰・キタモトマサヤさん(2008.5)
「今、生でみられる演劇は、すべて現代演劇といえる」とキタモトさん。なぜなら、日本の演劇史にみられる数々の手法が、相互に影響し合って今に至っているからである。
一例として、約2500年前のギリシャ劇でありながら現在まで上演され続けている『オイディプス王』(作:ソフォクレス、演出:蜷川幸雄、音楽:東儀秀樹、出演:狂言師 野村萬斎・麻美れい・他)のDVDを鑑賞する。作品中の俳優、演出、音楽、衣装などには、歌舞伎、能・狂言、アングラ劇、宝塚歌劇、雅楽、日舞など、日本演劇独自の要素が混在していた。このほか、小劇場系の劇団が、歌舞伎や能・狂言、新派などの所作を参考にしたり、大衆演劇がアングラや小劇場演劇の手法を取り入れたりすることもあるそうだ。「ジャンルで区別せず『何でもみてやろう』という姿勢が大切」とキタモトさん。
後半は、現代演劇の中でもシニア世代に馴染みのない小劇場演劇の「観劇ガイド」。まず、小劇場系の作品群を内容や演出・手法、創作目的等から判断し、大胆に分類する。キタモト流では、大きく「芸術系」と「エンタメ系」の二つに分かれ、このうち「芸術系」には「古典リスペクト派」「新作戯曲派」「ポストドラマパォーマンス派」が、「エンタメ系」には、「商業演劇」「シュール派」「劇画マンガ演劇派」が存在する。ただし、大抵の劇団は、複数のグループに属し、同じ劇団でも作品によってグループが異なることもある。
続いて、この分類に沿って公演のチラシ数十枚を用い「何派に該当するか」、一緒に考えながら分けていく。チラシには、デザイン、タイトル、受賞暦、上演劇場など、判断材料がたくさんある。キタモトさんが読み上げるコピーや劇団情報に、うなずいたり、頭をひねったり。「これは見たいが、こっちはちょっと」「この間、観たがよくわからん。劇作術が未熟なのでは?」など忌憚なき感想も飛び交った。この分類によって、劇場の個性もわかり、おぼろげながら小劇場演劇全体がつかめたのではないだろうか。ちなみに精華小劇場では、様々な作品が偏りなく、上映されていることがわかった。
講座が終了しても「この劇団は何派?」「劇場のものを映像でみると感動が半減するのはなぜ?」など質問が絶えず、30分の延長となった。
