流山児
2010年大人のための演劇ワークショップ参加者大募集!!今度は漱石だ!7/23-28は好評のうちに修了 関連記事

演劇のカラダをつくろう

 

 演出家・流山児祥さんは、2007年で10周年を迎えた中高年劇団「楽塾」を率い、2006年に演出家や劇場経営者など演劇界の重鎮を集め「3年間限定」で結成した「パラダイス一座」では、旗揚げ公演『オールド・バンチ』で第7回倉林誠一郎記念賞を受賞するなど、早くからシニア演劇の可能性をひらき世に示してきた。こうした実績が評価され、現在、日本演出者協会主催の演劇大学ほか、全国で開催されるシニア向けの演劇ワークショップの講師として各地で引っ張りダコである。これまで行われたワークショップには、「演劇未経験者対象」、「シニア劇団対象」、「指導者対象」などがある。 

 内容はいずれも、W・シェイクスピア作『夏の夜の夢』をテキストに、昭和ポップスによる踊りなどを交えながら、4〜5日間、演劇で「遊ぶ」面白さを体験し、最終日には「発表」するという形式。1日あたり稽古は、3〜6時間に及ぶが、この「遊ぶ特訓」のような試みは、いつのまにか遊べなくなった大人のリハビリとしても効果大のようだ。また、ワークショップ終了後、参加者が「演劇をやりたい」と劇団を結成
した例もあり、短期のワークショップでありながらその影響力は大きい。

 

演劇未経験者対象
演劇大学in SENDAI(2007.10)

 仙台市における演劇事業の発信・交流の中心となっている(財)仙台市市民文化事業団の「せんだい演劇工房10−BOX」にて、日本演出者協会主催の演劇大学in仙台2007が開催された。その一講座「シニア・コース・シェイクスピアで遊ぼう」を流山児さんが担当した。

 

 受講生は10名。演劇は未経験の人ばかりだ。自己紹介の後は、テキストを通して読むことから始まるが、単に読むだけでなく、前のセリフの最後の一文字にかぶせるようにして読んでいく。「演劇は人と人との関係性をみせること」という流山児さんは、本読みの段階から、他人を意識せざるを得ない環境をつくっていく。次に西郷輝彦の『星のフラメンコ』など歌に合わせて振付け。キャスティングが決定し「台本を覚える」宿題が出た。

 2日目。午後には、作品に用いる3曲分の振り付けを自分達で作ることが決定。参加者は、自分を解放できる人とそうでない人に分かれていた。「朗読をやっているが自分の枠を壊したい」「ナレーターをやっているが表現力を高めたい」という表現意欲の高い前者は、これでもかというぐらい自己アピールするが、後者は逆に自信がなくなってくる。休憩中に「体が動かない。最後までやれるのか」とため息をもらす人も。

 3日目は、皆、開始時間より早くきて発声練習。これまでの1.5倍もの大きな声が廊下まで届いていた。流山児さんの指導も「全然できてない!」などと少しずつ厳しくなるが、それが、覚悟を決め自分を開こうとしている人を後押しする。稽古終了後、なかなか一歩が踏み出せなかったある女性は「流れの中に入っていけるようになったら楽しくてしかたがない。関節痛みもいつのまにか忘れていた」と汗を光らせた。

 4日目は、稽古場を出て、10−BOXの駐車場で「通し稽古」をやってみる。歌う、叫ぶ、踊る、走る、倒れる・・・。ふつうに考えたら、どう考えてもオカシイ光景だが、そんなことを考えている人はもちろんいない。残念ながら、発表はみられなかったが、演劇大学・他コースの受講生らも大勢見学し、注目を集めたそうだ。受講生の中から、その後、劇団をつくって活動している人もいるという。

仙台10BOX。自分を変えたい、表現したいシニアが集合。流山児さんの隣は、演出家としても活躍中の小林七緒さん(仙台)

 

4日目、本番直前の稽古が10BOX駐車場で行われた。この頃になると最初の「照れ」は完全に消えている(仙台)

 

流山児さんのワークショップは動きが激しく、カメラマン泣かせ(仙台)

 

シニア劇団対象
プラチナエイジシアターin釧路(2007.6)

 (財)北海道文化財団主催「プラチナ・エイジ・シアターinだて」では、道内のシニアを中心とした3つの劇団が公演を行ったが、公演までの過程で、劇団のブラッシュ・アップを目的に、伊達市、釧路市の2カ所で、流山児さんのワークショップが組み込まれた。ここでは釧路市の様子をレポートする。

 会場は、市内の老舗ジャズ喫茶「ジス・イズ」の2階。受講者は2006年に発足した「くしろゴールデンシアターきらり座」の団員が中心である。美空ひばりの『ロマンティクなキューピット』が大音量でかかる中、2人ペアになり、4小節ごと手分けして、この曲に振り付けをする。受講生は緊張しながらも、「青いお空にぽっかりと〜♪」と童心に帰って、創作を楽しんでいた。夕方には配役も決定。

 2日目は、受講者の仕事の有無の関係で、稽古の時間帯をずらし、立ち稽古。出だしの部分の動きも形になってきた。しかし、平均年齢が60代の「きらり座」団員は、動きっぱなしの身体、せりふが入らない、持病が・・などが原因で、「4日で完成なんて無理」と不満をもらす人、病気で通院中の人も「やはりできない・・・」と肩を落とす人も現れた。 同じ受講者の励ましもあり、なんとかクリア。

 3日目になると皆、覚悟を決めてくるから不思議だ。流山児さんもノってきて「演劇ってのは」「役者はな」と熱い演劇論をはさみ、指導する。演出は何度も変わるが、参加者はカラダで考えるようになっていた。白熱した稽古場の中で、「これがプロなのよ」劇団北芸の森田啓子さんが少し興奮気味に叫ぶ。森田さんは、シニア劇団「きらり座」の演技指導を担当している一人だ。「仲良しグループじゃダメ。いい芝居をみせて観客に喜んでもらえる快感をみんなに味わって欲しい。今日はいい刺激になっているんじゃないかな」

 4日目。ふっきれたさわやかな顔で、稽古場にやってくる面々。知り合いも呼んでの発表会は大成功に終わる。このワークショップによって、これまでない自分の中のキャラを発見した人もいる。つい、守りに入りがちなシニア劇団は、大いに刺激されたようだった。

市内のジャズバー「ジス・イズ」の2階で初日の打ち合わせ。以降、4日連続、猛稽古。

 

美空ひばり「ロマンチックなキューピット」。レトロでポップな昭和歌謡が多く使われてる(釧路)

 

雑念を払い、集中できる空間で、シニアのハッとするような表現が生まれてくる(釧路)。