団塊の世代に共感を呼ぶ等身大の作品
シニア世代を文化活動で盛り上げる取り組みのひとつとして、延岡総合文化センターが2006年に立ち上げた「シニア劇団のべおか笑銀座」。劇団名の「笑」は「笑う」と「SHOW」にかけ、銀には「いぶし銀パワー」の想いが込められている。団員17名(2006年度1期生)は、ほとんどが演劇未経験者で、このうち、3名は舞台監督や小道具などのスタッフとして入団した。
2007年3月に行われた旗揚げ公演『上を向いて歩こう』(作・演:実広健士)は、カルチャー教室の放課後を舞台に、団塊世代の切なく、ほろ苦い心情を表わした作品で、平均年齢57歳の団員にとって、非常に共感できる内容となっている。うそのない演技が、人の心を動かしたのか、公演当日は、予定していた同センター小ホール(定員300名)での2回公演が完売し、追加公演が行われるほどの盛況ぶり。同世代の観客からは、「感動して涙が出た」「私もがんばろうと思った」などの感想が寄せられた。
2007年末には、劇団員の中から5名が、同センターが主催するグループサウンズをモチーフにした音楽劇「フリフリ・ボーイズ〜2007年のGS狂騒曲」に出演。このほか、地域の劇団に出演する人も出てくるなど、活躍の場も広がってきた。
ドラマティックでない人生などない
劇作・演出・演技指導は、宮崎市内を中心に活動し、綾町に稽古場兼劇場を構える「劇団ぐるーぷ連」代表の演出家・実広健士さん。週1〜2回で半年間の稽古。第1回の台本ができるまでの2カ月間は、2部構成で、前半が身体を使っての発声練習、後半は、それぞれの生い立ちや人生観、「今一番伝えたいこと」など話をする。
団員には知らされなかったが、このとき何気なく話したエピソードや感情経験は戯曲に投影された。結果、姑の介護、夫婦間の溝、先立たれた妻への想い、不倫など19のシーンからなる群像劇に仕上がった 「『結婚して子どもを育てただけ。自分の一生に劇的なことは何も起こらなかった』という人もいます。そうではなく、平凡でも、ここまで生きてきたこと、それ自体がドラマティックなんだということを本を通して気づいて欲しい」と実広さん。
また、舞台上で問題が解決し、ハッピーエンドで終わる話ではない。「演じる人もシニア、観客もシニア。人生の節目で“切なさ”を感じている人たちに、舞台から『あなただけじゃないよ』というメッセージを送りたい。演じるものと観るものが共感できる芝居と考えました」


困難を乗り越え舞台に向けて一つに
今年3月に行われた2期生による第2回公演『命、愛して候。』(作・演:実広健士)は、歌謡教室を主宰する56歳の男性の生前葬を描いたコメディである。前作が、しっとりムードでまとめられていたのに対し、笑いのシーンが満載。登場人物の亡くなった妻や母親が幽霊として次々と現れ、夫や息子に、あの世の”生きごこち”を語る。
「・・・うまく言えないけれど、あっちでは、気持ちがなくなるんだよ。・・・わくわく、どきどきがないんだ」(『命、愛して候。』より、あの世にいった一郎の母・栄子のセリフ)
何でもない日の何でもないことに一喜一憂すること、苦しみや悲しみに打ちひしがれることさえも、生きている証拠。「いまある命を愛して生きよう」という、まさにタイトルどおりメッセージが伝わってくる。
実は、同公演の稽古期間と並行して、複数の劇団員の身の上に、家族の死や本人の病気などの不幸が、偶然にも度重なっていた。気を落とす団員、稽古もままならず、一時は、代役を立てることも検討された。ところが、病床にあっても「舞台に立ちたい」と強く願う男性をはじめ、演劇をあきらめる団員は一人もいなかったという。
また、状況が状況だけに、最初は生前葬を扱うストーリーに抵抗がある人もいたが、家族を亡くしたある女性はむしろ「あの台本だから演じられた。゛生”を楽しむことの大切さを伝えたい」と話している。
悲しみをぐっとこらえながら、舞台に向けて集中してきた団員の演技は、昨年と比較できないほど深みが感じられた。
■これまでの上演作品:
2007年 第1回『上を向いて歩こう』(作・演:実広健士)
2008年 第2回『命、愛して候。』(作・演:実広健士)
2009年 第3回『N市・川端物語』(作・演:実広健士)

