

「稽古をいっぺん、みに来まい?」
「エルダーキャッツ」は、香川県高齢者協同組合(以下、高齢協)会員の有志で結成された高齢者劇団である。会員で「劇団マクダレーナ」主宰の大西恵さんが「老人は社会のお荷物と思われるのは心外。イキのいい年寄りを集めて劇団をつくれないか」と同じく会員の故・内海正清さんに話しを持ちかけたのが始まりだった。
当初の団員は16名。還暦から演劇をはじめた団長・小西金太郎さんを除き、全員が演劇未経験で、このうち半分は「『稽古をいっぺん、みに来まい?』と誘われ、訪ねると台本を渡されて、いつのまにか団員になった」人たちである。
2008年で結成5年目。年1回の高松市市民文化祭「アーツフェスタたかまつ」には2004年より毎年参加しているが、高齢者ならではのテーマが同世代の観客に共感を呼び、第5回公演の際は、チケットの払い戻しが出るほどの人気。2005年9月には、愛知万博『愛・地球博』にも招聘された。2007年には、4作目『いもがさ恭安』で舞台となった旧仁尾町(現三豊市)への地方公演を果たし、800席近いホールを満席にする。2008年1月には、新作『さぬきの寅さんシリーズVol.1』第1弾も始まった。年齢に応じて先細るどころか、末広がりに発展している。
戯曲にこめられたシニア魂
エルダーキャッツは、青春グラフティ、社会派ドラマ、ミュージカルコメディ、地元の実話をもとにした時代劇など、多様なジャンルに挑戦してきた。戯曲は、単に「高齢者の元気」を謳うものでも、高齢者のおかれた社会をやみくもに批判するのでもない。現実を受けとめた上で、創意工夫、助け合いにより、高齢者の自立を示唆したものだ。
「若い人からみたら醜い婆さんかもしれんけど、心までひからびてはおりません。私ら石やないんです」(『さぬきほっこまい』より)。楽しさの中にも時折、登場するシビアなセリフに、観客はドキっとさせられる。
最新作『よっこらしょ!』は、おそらく高齢者演劇を高齢者が演じる全国初の作品(シニアの俳優オーディションをモチーフにしたものはある)ではないだろうか。「年寄りの遊びごとに税金を使うゆうことや」「演劇は遊びごとじゃないですよ!」など、聞き流せない議論がなされるかと思えば、今度は「おたくさんら、60年も70年も生きてきて、まだ生き甲斐を見つけていないの」と同世代の観客への問いかけ。シニア世代の生き方について考えさせられる内容であった。
稽古は、週1〜3回(2時間半〜4時間半/回)。上演時間は2時間弱、凝ったストーリーでは、役の難易度も高く、当然、稽古は厳しいものになる。大西さんは「『やっぱり歳やからな』といえば、会場は爆笑します。しかし、これをやってしまえば、それ以上伸びない」。団員も「観劇料をもらっている限りは、できるだけのことはやる」と家族の問題や病気等、様々な事情をクリアして芝居に臨んでいる。

シニア劇団の組織運営にも挑戦
エルダーキャッツの特徴は「高齢者にとって身近な問題がテーマ」「さぬき弁を大事に使う」「子どもや若者とも共演し交流を図る」の3つで、地域の文化・社会活動の側面も持っている。シニアが芝居をやり続けること自体、そのひとつといえるだろう。
「芝居の内容の挑戦も必要だが、組織づくりの挑戦も必要。線香花火になってはいけない」と話すのは、主役級の役をこなしながら、一方で持続可能な自立した劇団運営を目指す小西さん。
最初の3年間は、高齢協の資金援助があったが、2006年より、チケット販売や広告営業などにより、公演にかかる費用を自分たちで工面するようになった。一方で、家族の理解を求め、団員同士の団結を強くするため、懇親会を開いたり、団員の中で何か問題が出るとその都度、全員で話し合い解決法を探るなど、生涯の仲間として助け合える関係づくりがなされている。
■これまでの上演作品(作・演出:大西 恵)
2004年 第1回公演『すてたらあかん』
2005年 第2・3回公演『さぬきほっこまい』
2006年 第4回公演『てんてこまい』
2007年 第5・6回公演『いもがさ恭安』
2007年 第7回公演『どんぐり小屋の大騒動』
2008年 第8回公演『さぬきの寅さんシリーズVol.1〜寅さん山に登る〜』、第9回公演『よっこらしょ!』
2009年 第10回公演 朗読劇『高松空襲の夜』、第11回公演『さぬきの寅さん恋やつれ』

